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要旨

本研究の目的は,洪水災害発生時のインターネットインフラが機能しない状況において,スマートフォンブラウザを用いてアクセス可能な 3D 洪水ハザードマップシステムを構築し,危険地帯を認識しやすくする手法を提案することである.

目的達成のためには,ローカル環境で動作するマップ表示システムと,危険地帯の認識を補助する地図デザインが必要である.そのために,まず Raspberry Pi4 ベースの地図配信システムを構築する.その上で,イントラネットのスマートフォンブラウザ経由でハザードマップを表示するシステムを実装する.加えて,陰影表現されたハザードマップを 3D マップにオーバレイして用いる.

本システムの効果を検証するために,オフライン環境における本システムの稼働時間と,マップ表示に要する時間を計測する.次いで,ユーザが低地と傾斜地を認識できるかを確かめる.実験の結果,本システムは避難予想時間を上回る稼働時間を達成し,オフライン環境下においても十分な速度でマップを表示できた.また,3D 表現によって,ユーザが低地,傾斜地を認識しやすくなることが示された.このことから,本システムは,洪水被害時に通信インフラがダウンしても,スマートフォンのブラウザアプリケーションを通じて,洪水災害時の危険地帯とされる低地,傾斜地を市民に認知させるハザードマップを表示できることが確認できた.従って,本研究の目的は達成されたと考える.

近年の自然災害の頻発は,迅速かつ効果的な避難対策の重要性を高めている.特に洪水災害時における伝統的な紙媒体ハザードマップの利用には限界があり,災害時のインターネットの不安定性はこの問題をさらに複雑化させている.これらの課題に対処するため,通信インフラが断絶した状況でも機能するデジタルハザードマップの開発が急務である.

これを踏まえ本研究は,洪水害発生時においても避難者がスマートフォンのブラウザアプリケーションを通じて危険地帯を識別できる洪水ハザードマップの閲覧システムを提案することを目的とする.

この目的を達成するために,Raspberry Pi 4 Model B を基盤とする Web 地図サーバーを開発し,オフライン環境下でも避難者が自身のスマートフォンを介して洪水ハザードマップを表示できるようにした.さらに,標高情報を 3D で表示し,陰影起伏を加えることで,利用者が低地と傾斜地を直感的に識別できるような地図デザインを実装した. システムの有効性を検証するため,オフライン環境での稼働可能時間とハザードマップの表示速度を計測し,Google 社が定義する Web パフォーマンス評価する指数を用いて,ページの読み込み速度やインタラクティブ性を測定した.さらに,2D 及び 3D 標高表現を用いたハザードマップを比較検証し,利用者が低地と傾斜地をどの程度正確に認識できるかを評価した.結果,本システムは内閣府の定義する避難想定時間を超える稼働を実現し,Google 社の指数に基づく評価では十分なレンダリングスピードでハザードマップの表示が可能であることを示した.また,3D 表現は 2D と比較して低地と傾斜地の認識を顕著に向上させることが示された.これらの結果は,本システムが洪水害発生時に通信インフラがダウンしても有効な避難支援ツールとして機能し得ること,および激甚災害時のインターネット接続が困難な状況でも,避難者が危険地帯を把握するための重要な手段となり得ることを示唆している.